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You've got mail #6 

スーパーマンからの手紙

2008年8月16日(土) 開演 午後2時/午後6時半

文京シビックセンター・小ホール

<演奏曲目>

第一幕

 ・ アメリカンパトロール

 ・ ゴッドブレスアメリカ

 ・ フラワーm(ピアノ)

 ・ アニメメドレー

 ・ Some one to watch over me

 ・ 夏色

 ・ 少年時代

 ・ 心ゆらして

 ・ だからみんなで

第二幕

 武満 徹「うた」より

 ・ 翼

 ・ 恋のかくれんぼ

 ・ 〇と△の歌

 ・ 小さな空

 ・ パパパの二重奏(「フィガロの結婚」より)

 ・ 乾杯の歌(「椿姫」より)

第三幕

 ・ ジョルダーノ

   歌劇「フェドーラ」より

   A mor ti vieta

 ・ ガーシュウインメドレー

 ・ 我が祖国

<演出・脚本 福原正美>

ナマ声、ナマ歌。そして、音はピアノ1本だけ。

一切の舞台装置もなければ、仕掛けも造らない。まるっきりの、カラ舞台、です…。

という、コンセプトで始めた音楽劇があった、としましょう。

その筋の演劇関係者はおそらく、「なんとまあ、安上がりの舞台だこと」と呆れて相手にしてもらえないかもしれません。

さて、皆さま。

6年目を迎えた今回もまた、ほんの一部の演出的効果を除けば、あとはすべて「ナマ」です。

ナマの音と、さまざまな光たち。

それだけで創っているこの舞台には、それなりの「わけ」があります。

見る人たちの「イメージ」を「自由」に「開放」したいと思ったからです。

クラシックコンサートって、なにもありませんね。カラ舞台です。しかも、演奏者たちの「おしゃべり」もない。ベートーベンのピアノ協奏曲とかも、ぜんぶ、聞くだけ。せめて、司会者がいてもいいのに…なんて、ボクは子供の頃、そう思ったものでした。オペラはほら、「血だらけ」だったり「死んじゃったり」で学生だったボクにはこわくて、ね。

一方、舞台のお芝居を見に行くと、場面としての舞台装置があり、そのなかで芝居をしています。でも、ときには、役者たちが素敵な演技をしているのですが、装置そのものにボクのイメージが縛られて、現実味のない印象を受けてしまうこともありました。「この部屋って何畳って設定なんだぁ?」とか「階段の下に仏壇があるって、いいのかなあ…」だの、「なぜ、ここに植木があるの?」という具合です。最近では装置そのものが「演技」しているようにも思われます。とくに、大舞台では「物語」よりも、装置そのものがもの凄く、それに圧倒されます。

いつだったか…まだ経済記者でアメリカ生活していた頃でした。もしかしたら、国境を越えてカナダだったかもしれませんが…。劇場でシェイクスピアの「ヘンリー5世」を見ました。カラ舞台です。ナマ声、です。役者さんの演技にボクの心は釘付けにされました。とくに、4幕3場はまだ忘れることが出来ません。狭いはずの舞台が、大平原であり、森林にも見えました…。そうですそうです、あの「セント・クリスピンの日」の名場面でございます。男なら、一度は夢見るあの台詞が森林に、そして、フランス軍2万の大軍勢と対峙した大平原にヘンリー5世の「勇気」がこだましていく…。ボクは心の底から感動していました。

…まさか、この「ユーガットメール」をあの舞台にたとえて…なんて、大それた望みを持っているのではありません。「カラ」だから「無限」なのだ、という設定をすることが出来たのは、あの「ヘンリー5世」のおかげです。「カラ」なんですから、なんでも入れていいわけです。舞台になにを投げ込むかは、見に来ている観客のひとりひとりではないかなって、ボクは思うのです。とくに、音楽ってそんな特質を持っているように思うのです…。笑っていいし、じっと見守っていいし…。ベートーベン「運命」の第4楽章を聞けば、当然誰だって理屈抜きで胸が高鳴り、思わず握り拳をつくる…それでいいと思うのです。

で、ついでに「カラ舞台」のことで、おもしろい話を聞きましたから紹介しておきましょう。

それは、出演者たちからの声、です。

「こわい」…んだ、そうです。

ボクは「?」でした。こわい…なんで、よぉ。

理由は、「装置がないから、お客様のまなざしが演技している自分に飛んでくるのがじつによく伝わる」って彼らは言うのです。

「だから、逃げ場がないのよ、ねぇ」とも言いました。それって、いいことじゃないのかなあ?

「演技力100%の舞台って、そんなにない」…んだ、そうです。

挙げ句の果て、

「歌までナマで歌うからドキドキの連続。失敗はそのまま後悔ですから、この舞台は」

へー、そうなんだ。

すべて、役者さんのできしだいであることは、確かに間違いない。

そう言えば、吉田鋼太郎先生率いる日本のシェイクスピア劇団AUNの女優さん・林蘭さんも「この舞台って、こわいですよ」っておっしゃっていました。そして、役者さんたちはいつも「ここで、いろいろと実験させてもらっています」とのことです。日頃、慣れた役回りの演技ではなく、やったことのない心理的反応の表現や、年齢を感じさせない役回りなどもこの「ユーガットメール」ならではのことらしい、ですよ。

毎回「手紙たち」を演じている柳沢三千代さんは、確か、…3回目でしたか、嫁いだ娘が父親に書いた手紙の一節に、「ありがとう、おとうさん」という台詞がありました。わずかこれだけの台詞をどんな気持ちで読むべきか、台本を持って彼女の師匠に教えていただいた、というほどの熱の入れようでした。前回は山川登美子の和歌を詠む、それだけなのに、三千代さんはNHKの録画まで取り寄せたり、彼女の全集に目を通したり。ご苦労様というか、大変でした、ハイ。

いつのまにか、仲間たちができました。その名も「ユーガットの座組たち」です。

岡田誠君が山田展弘先輩を呼び寄せ、彼らが仲間を創っていきました。今年、他の舞台と重なって出られなかったソウコちゃんが「くやしーい」と叫び回っていました。シンサク君は、歯の治療のため「来年、出させてくださいよぉ」と、予約してきました。まったくもって、家族のような仲間たちが「ユーガットの座組たち」なのでしょう。

果たして、彼らが今年はどんなことをしてくれるのか皆さま、お楽しみくださいませ。

そして、皆さまのあたたかい拍手こそ、彼らの「勇気」を引き出してくれます。よろしくお願い申し上げます。

…まさみ…

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