You've got mail #10
「英雄」からの手紙
2012年8月23日(木) 開演 午後7時
2012年8月24日(金) 開演 午後2時/午後7時
北区滝野川会館・大ホール

<演奏曲目>
第一幕
・ モルダウより 「男は大きな河になれ」
・ 埴生の宿
・ 嵐を呼ぶ男
・ どじょっこふなっこ
・ 紅葉
・ 青い山脈
・ この道
・ 背くらべ
・ 村の鍛冶屋
・ 星の界
・ ガード下の靴磨き
・ 冬景色
・ ウミ
第二幕
・ 虹の彼方に
・ 冬の夜
・ 三百六十五歩のマーチ
・ さくら
・ 俺たちはサルじゃない
ピアノBGM
・ マイメモリー
・ 記憶の中へ
・ 初めて
・ アイ シィンク ユー ラブ ミー
・ 早春賦
<演出・脚本 福原正美>
十年目を迎えることが出来ました。
これほど長い期間続けられましたことは、ひとえに皆様のご愛顧の賜と深く感謝しています。
「ありがとうございます」
私個人の文通相手だったニューヨークのピアニストと岡田誠君をジョイントして、原宿にある小さなホールで「You’ve got mail」と題して音楽会を創ったことが、そもそもの始まりでした…。今では大プロデューサーになった福島茂人君がこのコンサートを仕切ってくれました。その上、作曲家の丸谷晴彦さんまでお手伝いいただきました。今思えば、豪華絢爛のスタッフですね。
岡田君が歌う曲名にちなんだ即興の台本を書き、ボクにとっても久々の興奮でした。学生時代、舞台の台本やラジオ台本を書いていた情熱は社会に出たボクには使うことがありません。新聞記者生活をしていましたから…。
棚に上げていた情熱を岡田君と福島君のおかげで二十年ぶりに取り戻して、音楽、と映像、舞台の世界を取り戻しました。1回限りの予定でしたが、これが結構お客様にウケたようです。
だったら…と、本格的に音楽劇をつくろう、と決まって、翌年から事務所近くの文京シビック小ホールを借りて第2回から第9回まで続けてきました。この間、ピアニストの石野真穂さんや二期会の大スター・林美智子さんにも友情出演していただきましたし、腕のいい新人さん達に登場してもらって舞台を盛り上げていきました…。
常連の皆様にはすっかりおなじみになりましたが、この舞台の特徴は「ナマ歌・ナマ声」です。舞台装置は一切なくて、俗に言う「カラ舞台」です。これはボクの個人的な考え方なのですが、具体的な場面設定でも、カラ舞台の方が観客には「想像力」というゆとりを持って観劇を続けられる…と。概して音楽の世界はファンタジックな世界だろうと、ボクは思っているからです。なので、幻想的な世界は「光と影」で表現すればいい、と考えました。物語のイメージを邪魔してはいけないと思っているからです。
ナマ歌にしてあるのは、マイクという「楽器」を使いたくないというこれも個人的な考えからです。人の声はそのまま使おう、と考えているからです。舞台は映画ではありません。いいところだけを繋ぐ編集なんてそんなことは出来ません。それが舞台ドラマの現実です。従って、稽古で良くてもイタの上でダメでした、なんてことがある世界が舞台です。ですから、役者さんや演奏者が、間違えていいのです。いや、これが舞台の「緊張感」に繋がり、観劇の「おもしろさ」に直結します。生きている証拠だから。同じ公演でも、毎回「味」が違うのもまた、舞台の特色。それでいいのです。いや、それが舞台ドラマなのです。
幕が開けば演出家の手は届きません。演出家は、後は神に祈るだけ、なのです。
使っている音楽はクラシックのアリアからミュージカルソング、世界民謡に唱歌、童謡と流行歌にディズニーソング、アニメソングなどあらゆる分野を使います。出来るだけ、皆様がよくご存じの曲を選んでいるのもまた、この舞台の特徴です。
皆様には簡単そうに思われるでしょうが、創ってみると、実はこれがくせ者。ご覧になるお客様にはなにひとつご心配をおかけいたしませんが、役者たちはそのたびにヒヤヒヤものです。ベテランである役者さんならなおさらです。
というのも、「知っている」「知られている」から怖いと感じます。皆様が知っている頭の中にあるイメージと比べられてしまうからです。とくに唱歌は恐がりましたね。オペラのアリアになれた彼らにボクは何度も唱歌を稽古してもらいました。「一音一詞、だぞ。唱歌の基本を忘れないで…」と、繰り返したものでした。素直な歌声、になるまで稽古してもらいました。
芝居が出来る…だけではこのイタには乗れませんし、歌うだけの声楽専門家もご出演いただけないのです。ですから、毎回キャスティングに四苦八苦します。しかも、大ホールでナマ声ですから、稽古場は大きくないと稽古になりません。
このカンパニーは稽古場では、岡田君を中心にして全員が30分程度みっちりボイストレーニングを続けます。彼らのそんな様子は、「準備運動」なのでしょうね。
さて。
手紙です。この舞台の中軸。独楽に例えればシンです。
この舞台には欠かせないアイテム。第3回でした。「様々な手紙たち」から登場して頂いた柳沢三千代さんの名調子で朗読する手紙たち。もう何十通になったでしょうか。
常連さんの中には「あの手紙が聞きたくて…」とのお言葉をいただいたときは、不覚にも胸を熱くしたものでした。
結婚間近の娘から父にあてたもの、アメリカ駐在員の手紙、東北弁で読むバッチャンの手紙、文学者の和歌を交えた手紙、アニメキャラクターの手紙など…様々な声彩で変化に富んだ異質の文体を朗読してくれます。日本を代表する声優さんには間違いないのですが、実はご本人、チャキチャキの関西人なんですよ。あれだけの「なまり」を自然に聞かせてくれるのですから…。いずれにしても、大変な勉強家です。いつだったか、文学者・山川登美子と与謝野鉄幹の文通(もちろん、筆者の創作)を台本したのですが、NHKまで足を運んで取材されておられたようでした…。頭が下がります。いまでは、我がカンパニーの重鎮、です。
今回、ちょっとした演出上で「いたずら」をしました。蘭ちゃん、です。
日本を代表するシェイクスピア「劇団AUN」(主幹・吉田鋼太郎)の女優・林蘭さん。すでに我がカンパニーの演劇人の主軸ですが、この人の持ち味はなんと言ってもあの長台詞をきちんと聞かせる技をお持ちであることでしょう。しかも、見ているこちらは全く飽きない。前回の舞台でそれを証明しましたが、今回は、違っています…。極端までに台詞を減らしました。ということは、目の動き、体の動作、「表情を台詞」にせざるを得ないという役どころです。
蘭さんは九州福岡出身。ですから、「九州の女中」役でしたらいとも簡単ですが、これでは元気がありすぎて…やはりここは「東北の女中」役にこだわりましょう。
ご自分では「九州弁のシェイクスピア」を創作しているほど、お国ことばを大切にしている彼女。でも、今回は九州弁はいったん棚に上げていただき、「東北弁」で通します。歌も、です。
役者さんとして、この方が「燃える」はずですから、はい。
一方、「女中ッ子」に扮する福原美波さんは、今年、日本大学芸術学部演劇学科を卒業したばかり。日本でのシェイクスピア劇団の元祖ともいえる「劇団シェイクスピアシアター」(主幹・出口典雄)のオーディションに合格して、「ヴェニスの商人」でジェシカ役、「ぺルクリーズ」ではマリーナ役でデビューした久々の本格派。しかも、この舞台では「男の子役」ですからさあ大変。
このおふたりをぶつけてみようと…。これは、ですよ、他ではそうそうあり得ないキャスティングですから、それなりにお楽しみ頂けると信じております、ハイ。
座長の山田展弘ですが昨年から両眼がともに見えにくくなりました。
現在、ほとんど見えません。しかし、「10周年なのでなんとしても(舞台に)あげてください。ここまで励ましていただいたお客様にも申し訳ありませんし…。やらせてください」と。ダメだ、とは言えません。
台詞は稽古場で、耳を目にしてすべて覚えてもらいました。役者魂、とはまさに彼のこと。さすがは我がカンパニーの座長ですね。
山田君を一番心配していたのが、岡田誠君。この舞台のみならず、一緒にあがった舞台はたくさんあります。その岡田君ですが、恒例の「アレ」…今年もちゃんとやります! どの場面になるのかはお楽しみに。
ボランティアの方々には、並々ならぬご援助をいただいてきました。
「ありがとうございます」
舞台で「なまはげ」が登場しますが、その衣装をふたり分創っていただきました。デザインを考えて、スケッチして、あれだけのものを完成してくれました…。
これだけの情熱が10年間、消えることなく続いているのは皆様のご来場いただけるうれしさに尽きます。ボクたちの情熱の源は、ご来場下さるお客様の拍手であり、笑い声であり、声援です。
それを毎回与えてくださっていただけて、ここまで来られました。感謝、です。
では皆様と劇場でまた、お会いしましょう…。
…まさみ…